2013年02月23日
幼稚園の思い出(2)
幼稚園の思い出で強烈なのは、自殺未遂事件である。
とは言っても、そうたいした事件ではないのだが。
やはり幼稚園の年長組の時だったと思う。
ぼくの所属したクラスはお遊戯の時間になり、全員で音楽室に移動した。
クラスの同級生は20人くらいいただろうか。
先生の引率で音楽室に異動したものの、先生は忘れ物をしたようで、園児をそのままにして職員室へなにかを取りにいってしまった。
子供たちだけの空間、音楽室。
がやがやとおしゃべりしていた子供たちも、やがて先生を待っているのに飽きてきて、教室の中をうろうろ歩きだした。ぼくは教室の隅に座り、友人の村山君となにか話をしていた。子供の誰かが教室内に設置してあったピアノの蓋を勝手に開けて、むちゃくちゃに鍵盤を叩きだした。それに同調して数名の園児がピアノを叩く。面白くなったのだろう、他の子供たちもワアワア騒ぎ出した。
その喧噪がピークに達した頃、その物音に驚いて先生が教室に戻ってきた。
ピアノを叩いていた子供たちも先生に怒られるとわかっているので、ピアノから離れて神妙にしている。
『今、ピアノを触っていたのは誰ですか!?』
先生は顔を真っ赤にして怒っている。当然誰も名乗り出たりしない。水を打ったように音楽室の中の子供たちは沈黙を守っている。
『誰ですか?ピアノに触った人は手を上げて名乗り出なさい!』
もちろん誰も手を上げたりはしない。そもそもピアノに触っていたのは一人ではない。
『わかりました!誰も正直に言わないのですね。ではここにいる全員に罰をあたえます。部屋に鍵をかけますから、ここでみんなでしばらく反省していなさい!』
と、園児をおいたまま、先生は教室に鍵をかけて出て行ってしまった。
子供たちはわんわん泣き出した。
ぼくは少し腹が立っていた。ピアノにぼくは触っていない。騒いでいたのは一部の男の子たちだ。ぼくは悪くない。悪くないのになぜ全員一緒に罰を受けなくてはいけないのか、容認することはできなかった。
こんな部屋にはいたくない。同級生の泣き声にもうんざりだった。その教室は建物の2階だったが、窓から抜けだそうと思った。ステンレスの窓サッシを開けると、2階の庇の部分に出ることができた。
ぼくは窓からその庇の上に飛び降りた。窓からは数名の同級生がぼくを見つめている。ぼくは庇の先端部分まで足を運んだ。その下には幼稚園の入り口の部分が見えているが、当然飛び降りることが出来るような高さではない。
『広重くん、死ぬの?』
窓の向こうからぼくを見ていた女の子が心配そうな顔をして、きいてきた。
死ぬ。
そうか、ここから飛び降りて死んでしまおうか。
そうすれば罪のないぼくを教室に閉じ込めた先生はどうするだろう?
自殺ということを初めて考えた瞬間だった。
結果、ぼくは庇から飛び降りることはなく、窓辺に戻って教室の中に帰った。
しばらくして先生は教室に戻ってきたが、ぼくが窓から外に出ていたことは気がついていなかったし、級友もそのことを先生に告げ口することはなかった。
後から、あの時に1階に向かって飛び降りていたら、と考えた。
ぼくは死んでいただろうか。
それとも打撲や骨折程度で、死ぬことはなかったんだろうか。
そんな事件を起こしていたら、新聞沙汰になって先生は免職になっていただろうか。いや、人生を棒に振っていただろうか。
いろいろなことを考えた。
でも実際は、なにもなかったのと、同じだ。
ぼくは飛び降りていないし、死んでもいない。
自殺と日常なんて一瞬の差でしかないし、生死の差も一瞬でしかない。
ほんの少しの差なんだなあということは、4才のぼくにも理解できたみたいだった。
とは言っても、そうたいした事件ではないのだが。
やはり幼稚園の年長組の時だったと思う。
ぼくの所属したクラスはお遊戯の時間になり、全員で音楽室に移動した。
クラスの同級生は20人くらいいただろうか。
先生の引率で音楽室に異動したものの、先生は忘れ物をしたようで、園児をそのままにして職員室へなにかを取りにいってしまった。
子供たちだけの空間、音楽室。
がやがやとおしゃべりしていた子供たちも、やがて先生を待っているのに飽きてきて、教室の中をうろうろ歩きだした。ぼくは教室の隅に座り、友人の村山君となにか話をしていた。子供の誰かが教室内に設置してあったピアノの蓋を勝手に開けて、むちゃくちゃに鍵盤を叩きだした。それに同調して数名の園児がピアノを叩く。面白くなったのだろう、他の子供たちもワアワア騒ぎ出した。
その喧噪がピークに達した頃、その物音に驚いて先生が教室に戻ってきた。
ピアノを叩いていた子供たちも先生に怒られるとわかっているので、ピアノから離れて神妙にしている。
『今、ピアノを触っていたのは誰ですか!?』
先生は顔を真っ赤にして怒っている。当然誰も名乗り出たりしない。水を打ったように音楽室の中の子供たちは沈黙を守っている。
『誰ですか?ピアノに触った人は手を上げて名乗り出なさい!』
もちろん誰も手を上げたりはしない。そもそもピアノに触っていたのは一人ではない。
『わかりました!誰も正直に言わないのですね。ではここにいる全員に罰をあたえます。部屋に鍵をかけますから、ここでみんなでしばらく反省していなさい!』
と、園児をおいたまま、先生は教室に鍵をかけて出て行ってしまった。
子供たちはわんわん泣き出した。
ぼくは少し腹が立っていた。ピアノにぼくは触っていない。騒いでいたのは一部の男の子たちだ。ぼくは悪くない。悪くないのになぜ全員一緒に罰を受けなくてはいけないのか、容認することはできなかった。
こんな部屋にはいたくない。同級生の泣き声にもうんざりだった。その教室は建物の2階だったが、窓から抜けだそうと思った。ステンレスの窓サッシを開けると、2階の庇の部分に出ることができた。
ぼくは窓からその庇の上に飛び降りた。窓からは数名の同級生がぼくを見つめている。ぼくは庇の先端部分まで足を運んだ。その下には幼稚園の入り口の部分が見えているが、当然飛び降りることが出来るような高さではない。
『広重くん、死ぬの?』
窓の向こうからぼくを見ていた女の子が心配そうな顔をして、きいてきた。
死ぬ。
そうか、ここから飛び降りて死んでしまおうか。
そうすれば罪のないぼくを教室に閉じ込めた先生はどうするだろう?
自殺ということを初めて考えた瞬間だった。
結果、ぼくは庇から飛び降りることはなく、窓辺に戻って教室の中に帰った。
しばらくして先生は教室に戻ってきたが、ぼくが窓から外に出ていたことは気がついていなかったし、級友もそのことを先生に告げ口することはなかった。
後から、あの時に1階に向かって飛び降りていたら、と考えた。
ぼくは死んでいただろうか。
それとも打撲や骨折程度で、死ぬことはなかったんだろうか。
そんな事件を起こしていたら、新聞沙汰になって先生は免職になっていただろうか。いや、人生を棒に振っていただろうか。
いろいろなことを考えた。
でも実際は、なにもなかったのと、同じだ。
ぼくは飛び降りていないし、死んでもいない。
自殺と日常なんて一瞬の差でしかないし、生死の差も一瞬でしかない。
ほんの少しの差なんだなあということは、4才のぼくにも理解できたみたいだった。