2014年11月24日

2014年 テリー・ライリー来日公演

テリー・ライリーの音楽を初めて聞いたのは1977年か1978年くらいだと思う。もう35年以上前だ。彼の作品で、手に入れやすかったアルバムはたいがい購入し、聞いた。そして2014年の今も日常的に聞いているので、私はテリー・ライリーの音楽の長年のファンであると公言してもいいと思う。過去2回の来日公演はスケジュールを知らなかったか、日時があわなくて行っていない。

2014年11月22日、23日の日程で、東雲にあるアートスペース「TOLOT / heuristic SHINONOME」でテリー・ライリーの来日公演が開催されることを知って、22日の公演チケットを購入した。

「テリー・ライリー来日公演のお知らせ」
http://supervision-project.com/
テリー・ライリー来日公演のお知らせ


この「TOLOT / heuristic SHINONOME」という会場のことは知らなかった。また今回のコンサートがアーティストの寒川裕人氏とのコラボということは公演の告知サイトで知ったが、彼のことはまるで知らなかったし、興味もなかった。当方の認識は、テリー・ライリーが来日する、そのコンサートが東雲で行われる、日本人アーティストとのコラボは正直言って「いらない」と思っていたが、今回の趣旨はそうなのだからしかたない、という程度の考えだった。

22日当日は5時くらいに会場を確認。まだその時点では行列などは出来ていなかったが、5時半くらいに再度会場前に行くと10名程度の列ができていたので並んだ。開場まで30分並び、6時には入場整理が始まったが、会場内の準備が遅延したのか、屋外で20分ほど待たされ、6時20分くらいに階段を上って会場に入場。この時点で50分くらい屋外に並んでいたことになるが、さほど苦痛ではない。

会場に入場して驚いた。映像が投影された巨大な白いキューブ状のオブジェがいくつかあり、コンサートはその奥で開催されるようだった。間口は10mくらいだろうか。
スタンディングでのコンサート観覧というのは事前にサイトでも告知されていたので理解していたが、ステージ前8mくらいのところにロープを張った柵があり、一般来場者はその柵の後ろからスタンディングでステージを眺めることになるようだった。
その柵の中は関係者、招待者のスペースだったようで、50名くらい座れるベンチ型の椅子が8列くらい並べられている。招待者、プレス、関係者はその椅子に座ってコンサートを最善の位置で観覧できる。一般入場者はその後ろでスタンディングの形で、これにはかなり驚いた。

私はもう35年以上音楽の世界にいるし、自分の主催のコンサートはおそらく500回以上開催しているし、国内外のコンサートやアートとのイベントにも数え切れないほど出演しているが、音楽を主体のイベントで一般来場者の前に招待者席があり、これほどまでに一般来場客と招待客の扱いの違うイベントは初めてである。通常招待者席はないか、あってもPA卓付近、一番後ろ、2階席の最前列といったあたりで、コンサートの最前列を数メートルにわたってふさぎ、その後ろで一般は観覧せよ、という目にはあったことがない。
しかしまあ、今回は寒川さんとのコラボで映像も見て欲しい、という趣旨でこういうステージ&客席構築に至ったのだろうし、来日にあたってたくさんのスポンサーや関係者が存在し、視聴シチュエーションの関係で最前部の位置に関係者席を作らざるを得ないのかもしれない。

やがて関係者席も満席になり、関係者席と一般の観覧の最前列であるロープの間にも人が並びだした。つまり一般入場者は、最前列で見ても、関係者の頭越しにしかステージは見えないということである。これにはやや困惑した。私はロープの前から2列目、真ん中に立っていたが、都合の悪いことに私の目の前の招待者エリアにスタンディングで背の高いカップルが2組陣取っていた。これでは完全に彼らの頭と頭の間でしかステージは見れない。インスタレーションの映像は横のキューブを見上げれば見える。ステージの演奏の音はどこにいても聞こえるだろう。しかし演奏者であるテリー・ライリーの姿は頭と頭の間からチラチラとしか見えない。

また観客席は満員であり、隣に立っている男女と肩がふれあうくらいである。満員電車のすし詰め状態とは言わないが、混んでいる電車の車内という感じである。もちろん動いてトイレにでも行こうものなら元の位置に帰れるとは思えない。コンサートが始まる頃には蒸し暑くなってきて、前後左右の観客の体臭や体温も気になりだした。音楽コンサートの観覧状況としては最悪に近い。

実際のこの状況を、現場にいない人には文章でわかってもらうのは難しいかもしれない。
当日のtwitterをまとめた記事があるので、こちらを参考にしていただきたい。
「2014年 テリー・ライリー来日公演についての感想・反響まとめ」
http://togetter.com/li/748894
2014年 テリー・ライリー来日公演についての感想・反響まとめ

コンサートは20分遅れで開始したが、その遅延のアナウンスはなかった。その間、会場が混んで来たので今一歩前にお詰めください、というアナウンスは3回流れた。さすがに3回目は最前列から『これ以上は無理だよ』と私以外の観客からも声があがっていた。

コンサート開始は7時20分。会場の前に並んでからすでに2時間経過。コンサートは2時間少しあったので4時間少し、立ちっぱなしの状態。これは55歳の私でなくてもかなり体力的、精神的にきついスタンディングではなかったのかなと想像する。コンサート終了後は、足がパンパンの感じ、空気も悪かったので風邪でもひくのではないかと気になった。かなり疲れた。

こんな会場のことやコンサートの運営について文句は言いたくない。いろいろ事情や考えがあるのは、私も自主コンサート主催を大小と何百回もやってきているのだから、おそらく一般の音楽ファンよりはよくわかっているつもりだ。スポンサーや出資者がいれば彼らにも気をつかうだろう。大人の事情もあるのもよくわかる。

まして今回は通常の音楽コンサートではない。アートスペースによる、アーティストとのコラボによるコンサートである。音楽というよりは「美術」の世界のタームで語るべきイベントなのだろう。音楽の常識だけでなにかを語ることは危険だ。いみじくも新宿で大友良英さんの「音楽と美術のあいだ」というイベントが開催中だが、音楽と美術のあいだにはいろいろな感情や認識や事情や立場の違いがある。私がこのイベントに文句を言う資格はないかもしれないとも思う。

ただ、この企画をアートだからといって結論付けたり、容認したり、諦めたりするのは、あまりにもおおざっぱすぎる。私のように、テリー・ライリーの音楽コンサートとして楽しみたいと会場を訪れた人はきっと少なくないと思う。寒川さんには申し訳ないが、新進のアーティストの映像作品もいいかもしれないが、テリー・ライリーの音楽を聞きたいだけなのだという来場者もきっといたはずで、彼らをイベントの趣旨と違うからガタガタ言うな、これはこれで楽しめ、容認しろ、と強制することはできないと思う。

実際のテリー・ライリーの演奏はよかった。もちろん私の前の関係者エリアでいちゃいちゃしながら観覧していた長身のカップルには、後ろで見ながらイライラしてしまったし、感情にブレがでてしまって純粋に音楽を楽しむには目を閉じるしかなく、寒川さんのインスタレーションの映像はむしろ見ないほうが気持ちが落ち着いたという、おそらく主催者の意図とは別の状態になってしまった。カップルに罪はない。若いカップルが仲睦まじくコンサートやイベントを楽しむのは容認したい。自分の中でオレはお金を払って来場しているのに無料の招待客が視界をふさいでいる、というふうに情けない感情を自分が持つのは、むしろ嫌だった。

少し悩んだが、やはりtwitterで書いておこうと思った。私には多くのフォロワーがいるし、私がやや不満げな書き込みをすることで波紋がおこることは想像できたし、JOJO広重さんが怒っているみたいな認識が広がるのは避けたかった。でも、やはり疲れていて、やや感情的なツイートをしてしまった。そのことは反省している。
しかし私の知り合いや友人で、翌日23日の公演に行こうとしている、おそらくはアートではなくテリー・ライリーの音楽コンサートを楽しみたいと考えているであろう何人かを含む、23日の来場者が、私のような驚きや落胆がないように、準備不足による疲れがないように、あえて書いておいたほうが良かったのかなと思っている。

今朝は北島薫さん 
@kaorunoth
https://twitter.com/kaorunoth
という知らない方からいきなりtwitterでメンションをいただいた。
『一体何が問題なのか分からない...招待客の方が一般客より大切に扱われて当然じゃないかな。』ともおっしゃっていて、ずいぶん驚いてしまった。なるほど、お金を出している人や懇意にしている人は、一般の来場者より偉いのか、と。そういう論理なら、例えば自民党が富裕層や大企業を優先し、たくさん税金を納めてくれたり、自分たちに都合のいい人を優先して政治を行うのも当然か、だから自民党圧勝なんだなと思って書いたら、北島さんはそれはそれで政治と一緒にするなという。するとなんなんだろう。会場の前方1/4くらいが関係者席で、一般はその後ろですし詰めで立って見ているのが普通のコンサートが何度も開催され、それを黙って楽しんだコンサートが過去に何度もあるということなのか。それは信じがたいが、事実なら誰のどのイベントなのか知りたい。

コンサートであれ、アートとのコラボであれ、一般の人が入場料を払えば見に来たり参加できたりするイベントを開催する以上、どんなお客さんがくるかわからない。イベントの趣旨を完全に理解した人だけが来るイベントはかなり限られるだろう。ましてアートと音楽のイベントとなれば、アートのみ興味がある人もいれば音楽のみ興味を持ってくる人もいるはずである。それを非難できないと思うが、どうだろうか。

何度も言うが、今回のテリー・ライリーのコラボイベントは、私は体力的には疲れたが、どうだったかというと楽しめた。6000円は最近のコンサートイベントの値段と比較すれば安いほうだと思う。主催者を否定するつもりはまるでないし、今後もがんばってほしいと思っている。

寒川さんのインスタレーションは、いい部分とよくない部分があった印象である。テリー・ライリーの音楽のバックに戦争の映像を持ってくるセンスは私には共感できなかった。原爆のキノコ雲、ナチス、ヒットラー、東條英機、死体の映像もあった。これらに敏感に反応してしまい音楽を楽しめなくなる人もいる可能性はゼロではないと思う。こういう部分は主催者とアーティスト側がもっとセンシティブに話し合う命題かもしれない。

23日のコンサートには私は行けなかった。行った友人知人からのツイートを見ると、私が感じた感情はあまりなく、前に設営されていた関係者椅子席もなくなっていたということで、これが元々そうだったのか、22日の反応を見て主催者が機敏に対応したのかどうかはわからないが、友人がこのコラボコンサートを楽しんでくれたのなら、それでいい。

この件でテリー・ライリーの音楽を嫌いになったりしないし、また同じ主催で来日公演が企画されても見に行くだろうと思う。

音楽と美術のあいだ、か。
いろいろ考えさせられた2日間であった。

JOJO広重 2014.11.24.


kishidashin01 at 13:41│clip!音楽