2011年02月21日

『Mくんのこと』

これは著書「みさちゃんのこと-JOJO広重ブログ2008-2010-」からの転載です。

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『Mくんのこと』

小学校5年生の頃、Mくんという男の子と仲がよかった。
一番仲がよかったのはFくんだったが、Mくんはちょっと別の遊びをする友人だった。彼は顔が二枚目で、言動もあか抜けていたのである。もしかしたら東京かどこか、都会からの転校生だったのかもしれないが、そのあたりは記憶があいまいだ。

私もずいぶんませていたが、Mくんもかなりのおませだった。他の友人の前では口にはしなかったが、私とふたりの時はクラスメイトのあの女の子はボインだとか、あの子はこの間スカートめくりをしたらパンツがピンクだったとか、けっこうHな話をして遊んでいたのである。トイレにいたずらで猥褻な言葉の落書きをしていたのも、実はMくんだった。私はもちろん先生たちには内緒にしていた。

Mくんは同じクラスのNちゃんが好きだった。ぽっちゃりしていて性格はやや男勝りのNちゃんは男子の中では人気があり、私もひそかに憧れていた。ある日Mくんと「クラスの女の子で誰が好きか」をお互いに言い合う機会があり、私も実はNちゃんが好きだということを彼に正直に告白した。その時彼は「そうか。しかしお互いライバルだが出し抜くことなくNちゃんのファンでいよう」と友情を示してくれた。

しかしそれは口だけだった。明らかに翌日からMくんのNちゃんに対する態度が違う。休み時間にふたりで話をしたり、本を貸し借りしたりと、私に負けるものかという態度でNちゃんにアタックしている。私もNちゃんの家に遊びに行ったり、話しかけたりする回数を増やしていったが、なんせ顔はMくんの方が二枚目である。ちょっとMくんにはかなわないかなと感じていた。

特別の授業で女子がいない時間帯があった。おそらく初潮について教える女子だけの授業だったのだろう。
クラスでは男子ばかりの自習の時間、当然おとなしくしているわけがなく、騒いだり、仲間で話をしたりして時間をつぶすことになる。Mくんと私を含む数名の男子は黒板で遊んでいた。MくんはWXYと大きく縦に書き、何かのHな替え歌を歌いながら女性の裸体をもじった落書きをして、私を含むませた男子はそれを見て腹をかかえて笑っていた。

そこに担任教師が女子生徒を連れてクラスに戻ってきた。「なにやってるの!あなたたち!」と大声で怒鳴られる。教壇の周りにいた私やMくんを含む数名の生徒は特に間が悪かった。女性の裸体を書いた黒板の落書きも残っている。

「これを書いたのは誰ですか!?」

担任の女性教師が顔を真っ赤にして怒っている。その質問にMくんは「犯人は広重くんです!」と私を指さしたのである。
私はびっくりした。その絵を描いたのはMくんではないか、どうして描いてもいない私のせいにするのか、てんでわからなかった。
私の頭は混乱し、気がついたら大声で泣き出していた。

おそらくMくんの友人としての裏切りに驚き、先生に対する弁解に窮し、後ろで見ているだろう女子生徒、たぶん大好きだったNちゃんもこのことを見ているという恥辱に耐えられなかったのだろう。ずいぶん長い時間、泣きじゃくっていたと思う。
怪我の功名か、担任教師には「あんた、こんなことで泣くの?」とあきれられ、この事件は私の号泣ですべてがチャラになり、その後は通常の学級生活に戻ったと思う。Nちゃんにもその後この落書き事件のことを言われた記憶もないし、私の評価が下がり、NちゃんとMくんが仲良くなったという記憶もない。

Mくんに対する不信感は少し残った。裏切り者め。確かにそんな気持ちではいたものの、じゃあ絶交したかというとそうでもなく、時間がたつとまた一緒に遊んでいた。子供時代に誰にでもあるような、小さな裏切り。その程度だったと思う。

しかししばらくの後、ご家族の都合でMくんは急に転校していったのである。
不思議な気持ちだった。でもMくんとは離れても友だちでいよう、そういう別れ方をしたと思う。


その次の正月に、私にMくんから年賀状が届いた。そこには「Nさんによろしくお伝えください」と記されていた。
私はその言葉を読み、「勝った!」と心の中で叫んだ。
なぜなら私はその冬休みにNちゃんの家に遊びに行き、お餅を食べ、他の女の子の友だちとも一緒にスゴロクをして遊んでいたからである。コタツに入ってNちゃんの持っていたマンガ雑誌「りぼん」を読んだこと、そこに一条ゆかりの作品が掲載されていたことは、今でも覚えている素敵な思い出である。




kishidashin01 at 23:45│clip!日常