2011年01月26日

とっておき名短編

とっておき名短篇 (ちくま文庫)とっておき名短篇 (ちくま文庫)
筑摩書房(2011-01-08)
販売元:Amazon.co.jp
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北村薫/宮部みゆき編「とっておき名短編」はkankotoさんが自身のブログ「戯言スクラップブック」で紹介されていた文庫本である。kankotoさんは読書家&音楽ファンで、私とも接点があって、彼女のブログはちょくちょく読ませていただいている。なので彼女が紹介している書籍にはちょっと興味がある。

この本のような、何人もの小説家によるアンソロジー本は、好きだ。例えば音楽で言えば複数アーティストによるオムニバスアルバムのような、1枚でいくつもの個性を楽しめる魅力がある。
一昨年、「日曜日の歌」という女性ボーカルのコンピレーションアルバムを企画してあるレコード会社の方に提案したところ、「オムニバスは売れないから」とあっさり却下されたことがあった。売れるか売れないか、という選択肢なら、書籍の世界でもアンソロジー本は単独の作家作品よりは「売れない」と評価される口だろうか。しかし今回のように選者が著名な作家ならという保証付きなら、今でも実現する企画なのかもしれない。

kankotoさんはこの本の中では深沢七郎の作品がお気に入りのようだった。深沢七郎の2編のみならず、ここに収録された作品はどれもレベルが高い。巻末には選者による解説もあり、それを読んでから再読すると深みが出るという工夫もされている。
深沢作品はもちろん好きだし、この「絢爛の椅子」「報酬」も内容はいいのだけれど、例えば巻頭収録の穂村弘「愛の暴走族」の感覚の新しさと比較すると、やや古さを感じてしまう。それでも現在のわけのわからない犯罪の多くの深層は、深沢の「絢爛の椅子」に描かれている感覚と実際はそう差異はないのかもしれないが。

私がこの本の中で一番気に入ったのは松本清張の「電筆」だった。内容は読んでいただければわかるが小説と言うよりは伝記ものに近いが、やはり松本の文章、単語、熟語の配置の美しさに堪能してしまう。
「サッコとヴァンゼッティ」はやや冗長な作品だが、最後のヴァンゼッティのセリフがいい。
『おれたちの命、俺達の苦しみ−−そんなものはなんでもない。お人好しの靴屋と、貧乏な魚売りが殺されかかっているだけですよ。』
このあとのセリフも秀逸。

最後に収録された「異形」もよかったな。なんともいえない読後感が残る。薄汚く、美しく、そして切ない。

なんだかもっともっと本が読みたくなった。
本の面白さは、このもっとその先を読みたくなる感覚につきる気がする。



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