2010年08月23日

HMV渋谷閉店を考える



HMV渋谷閉店を考える。


実は、HMV渋谷の閉店に非常階段がインストアライブに出演するというのは、通常では考えにくい。


この日以外のインストアイベント、例えば19日の曽我部恵一presents HMV渋谷 おつかれサマーフェスや22日のFINAL EVENT "REGENERATION" MINI LIVE、DJイベント、中原くんのヘアスタイリクス、最後に飛び入りしたスガシカオなどが正しいのであって、非常階段はあきらかに異質だと思う。

でも21日の非常階段のイベントにはたくさんの人が来たよね。私は300人超とブログで書いたけれど、後から写真や映像を見てみると500人くらい来ているように見える。

それに同じ時間帯には2階でHAL CALIがインストアライブを行っていて、たぶんそちらのほうが動員は少なかったと思うけれど、翌日のスポーツ新聞などのニュースにはHAL CALIがHMV渋谷閉店を惜しんだという記事が掲載され、非常階段のことには触れられていない。
でも、それでいいのだ。HAL CALIは新聞に載るような音楽で、非常階段はそうじゃないから。

非常階段は渋谷系ではない。非常階段はメジャーなバンドではない。そもそもずいぶん長く渋谷でライブも行っていない。新宿や高円寺の地下のライブハウスで数十人の観客を相手にアンダーグラウンドと呼ばれる世界でノイズを演奏しているようなバンドだ。

入場無料という条件があった。非常階段は過激なパフォーマンスバンドというパブリックイメージがあり、HMV渋谷の閉店というニュアンスでなにかお店を破壊するような行為があるのではないかと野次馬根性をそそった条件もないではなかった。

それに今回のイベントは店内の情報でお客さんが集まったというよりは、twitterを主とするネット環境で情報が広がった現象のひとつで、例えばDOMMUNEのustに1万人超の視聴者がついたとか、そういったニュアンスの出来事だと思う。

もちろんHMV渋谷のスタッフさんの英断や、最後だからというやけっぱち精神もあったと思う。そして非常階段をHMVのインストアにという破天荒な企画を遂行したいという意欲もいい方向に動いたと思う。
単行本のリリース、その先行販売、原爆スター階段のDVD発売という最新の情報も加味したとは思う。


それでもねえ、非常階段だよ!(笑)
よーく考えてみな!
オレは今年の7月に江古田でソロのライブやって4人しかお客さん来なかった程度の男だよ。
いくら無料とはいえ、非常階段のライブに入場規制がかかるほどの観客が集まり、ノイズを演奏し、モッシュが起こり、ワーワー騒いで絶叫して、『今度はおしっこするぜぃ!』なんてアホまるだしの50過ぎのおっさんの吠えるアジテーションに若者が拳を振り上げて「うおー!」と答えるなんて、絶対にHMV渋谷には"ありえない光景"ですよね。


じゃあなんでありえないことが起こったの?
それはみんながお店に来たからでしょ。
2010年8月21日土曜日14時、HMV渋谷の3階に300人だか500人だか知らないけれど、たくさんの人が集まったこと。
遠方から来た人もいた、非常階段のファンもいた、でもたぶん半数以上は非常階段という情報は知っているけれどなんだかおもしろそうと集まってくれた音楽ファンだと思う。
普通の音楽ファン、つまり普通の人たちがたくさんたくさん集まって、普通ではありえない瞬間を作り上げたのだと思うよ。
HMV渋谷と非常階段と集まったお客さんでみんなで作った「非・日常的光景」。だからみんな感動したり、笑顔だったり、楽しんだり、達成感があったり、ワクワクしたり、おおいにアホ丸出しだったりしたんじゃないかな。


HMV渋谷の閉店は大きなニュースだよ。音楽業界全体から見ても、超ビッグな出来事だ。
でもみんなにとっては街のCDショップがひとつ消えるというニュースでしかない。もうCDは買わないか、今後はまだ残っている店舗か、HMVオンラインやアマゾンで買うのだよ。
みんなの住む町にある小さな素敵なレストランが消えるという出来事とHMV渋谷の閉店は、実はそんなに大きな差はない。
さみしいよ。残念だ。でもMCでも言ったけれど、これは嫌みでもなんでもなく、みんなが店頭でCDを買わなくなったから実店舗が閉店になるわけで、それは経済事情という、これまた我々の日常生活の延長である現実の出来事でなんの不思議なことでもない。


でも非常階段インストアライブは、非・日常だったね。
そう、みんなが何かのきっかけで動けば、普通は想像も出来ないことがらだって起きる。
みんなの音楽に対するモチベーションが落ちているわけではない。音楽はなくなったりしないし、死んでもいない。
まだまだおもしろいこと、まだまだ想像も出来ないようなことはこれからも起こる。
新しいアーティストも新しい音楽もまだまだいっぱい出てくるし、ちょっとしたきっかけでみんなが出来ることはたくさんある。
そんな希望とか、夢とか、うまく言えないけれど、音楽の未来はまだまだいっぱい残っているんだなあと実感できる瞬間が21日のイベントには確実にあったと思う。だからお客さんもHMV渋谷のスタッフも、オレもみんなニコニコだったんだと思う。

みんなお金ないじゃん。オレもないよ。(笑)
じゃあ、無料でいいじゃない。1969年ウッドストック・フェスティバルに集まった40万人の観客の半分以上はお金を払わないで入場したらしいじゃない。お金のないヤツは音楽聞いたらダメなの?そうじゃないよねえ。
HMVのインストアのイベントも写真・ビデオは撮影禁止だったけれど、みんなバンバンとってすぐにyoutubeにあげてるじゃない。いいじゃん、やっちゃえやっちゃえ。オレは勝手にustreamで放送するヤツいたっておもしろいのにと思ってたんだよ。


何年か前にこのブログに書いたね。今の「音楽」は一旦終わる。でも次の「音楽」が始まる。
8月21日の非常階段HMV渋谷インストアライブは、もしかしたらその古い音楽が終わる瞬間だったのかもしれない。その現場にたくさんの人が立ち会った出来事だったのかもしれない。そしてノイズ演奏して盛り上がってモッシュして絶叫して、それがyoutubeにあがった瞬間が、新しい音楽とやらのスタートした瞬間かもしれない。そのことを実現したのは非常階段ではなく、集まった何百人かの音楽ファンのみなさんだと思いますよ。

オレもアホだよ。
でも非常階段インストアライブを実現したHMV渋谷のスタッフもアホさ。集まったみんなもアホさ。
でもアホが世界を変えるんだよ。現実を超えることだって出来るんだ。

なんか、そんなふうに思ったよ。

でもホント、みんな、ありがとう。
来れなかったみんなも。

HMV渋谷、本当にお疲れさまでした。


kishidashin01 at 03:59│clip!音楽