2010年07月27日

机/箪笥

どんなものでも30年使えば魂が宿る、ということをおしえてくれたのは、高校時代の宗教学の教授だったと思う。

私の通学していた私立高校はプロテスタントのキリスト教系の学校だったため、毎朝、チャペルに集合して礼拝を行う習慣があった。
賛美歌の合唱、聖書の一部の朗読、教師や招かれた識者が壇上に立ち、30分程度の講話を行う。

よほど面白い話ならともかく、高校生ともなると仲間との私語や会話に夢中で、壇上の話など聞いていない。外から招かれたゲストによる話の時はまだ気をつかって神妙に話を聞いているが、同じ学校の教師の話など、ほとんど耳をかさない。

その日の宗教学の教授の話は、ほとんど誰も聞いていなかったと思う。私も友人と音楽の話かなにかをしていたはずだ。
しかし、ふとその教授の話が耳に入り、先ほどの「どんなものでも30年使った道具には命が宿る」という言葉に興味がわき、周囲の雑音をシャットアウトしてその後の話を聞くことになった。

もう大体は忘れてしまったが、その教授(その時点で60才を超えていたと思う)が、学生時代に自分の兄から譲り受けた机の話だった。兄とは年齢が離れていて、譲り受けた時点でその机はすでに年代もののように、黒光していたという。

その机は当然おさがりなわけで、まだ若かった教授はこんな古い机よりも新しいのが欲しいなと思ったそうだ。

しかしその机を使うと、なんとも気分がいい。
机にむかって勉強すると、なにかに包まれているような気分がする。
その机で勉強し、手紙を書き、食事をし、普段から雑巾で磨いていたそうだ。
その机で勉強して受けた学校に入学し、その机で書いた恋文の相手と結婚したという。

戦争が始まり、出兵することになった。
もちろん家族との別れも悲しかったが、どうしてもその机のことが気になってしかたがなかったそうだ。
教授は藁半紙の紙に「必ず帰る」と書き、その机の裏側に糊で貼り付けたという。

戦争が終わり、帰国した。
家族が言うには、家は空襲で焼けていたが、奇跡的に机は焼けることなく、焼け跡から取り出せたそうだ。

その後机は教授の子供が使い、今は孫が使っているという。


こういうエピソードには、実は時々出会う。
例えばこのように大切に使っていた家具を、ぜんぜん事情を知らない家族が乱暴に扱ったところ大けがをしたとか、仏壇に守られた話なども多い。


ちょっと内容は違うけれど、半村良の小説に「箪笥」という短編がある。
これは箪笥にまつわる能登地方のフォークロアだが、なかなかぞっとする恐怖小説である。未読の方にはおすすめする。

能登怪異譚 (集英社文庫)能登怪異譚 (集英社文庫)
著者:半村 良
販売元:集英社
発売日:1993-07-20
おすすめ度:5.0
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kishidashin01 at 12:33│clip!読書