2009年11月29日

世界は「使われなかった人生」であふれてる

世界は「使われなかった人生」であふれている (幻冬舎文庫)世界は「使われなかった人生」であふれている (幻冬舎文庫)
著者:沢木 耕太郎
販売元:幻冬舎
発売日:2007-04
おすすめ度:5.0
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今年はたくさんの女性、女の子と知り合った。下は20代、上は60才代までだが、一年間に知り合った数では過去最高かもしれない。
別にもてているわけではない。その証拠にもう顔を合わすことすらない関係になったのもあるし、嫌な思いをさせてしまったこともあるし、第一、恋する関係になったものはひとつもない。(笑)
知り合いとか、友人がちょうどいい。私は「いい人」ではないから。


今年知り合って仲良くなったCちゃんには、本を貸してあげた。そのお礼に先週、1冊の本を貸してくれたのだが、それが沢木耕太郎の『世界は「使われなかった人生」であふれてる』という映画評論集だった。

私は小説や童話など、フィクションが好きで、どちらかといえばノンフィクションは苦手である。
私は中学生の時、父親に自作の小説を見せたことがある。父は読後、これは作り話だろう、本当に面白いのはノンフィクションだ、という持論を展開し、自分が知っている服飾関係の、苦労してその後大成功した人間のエピソードを語り、こういったものを書けと説教した。私のノンフィクション嫌いは、ルーツはここにあるのかもしれない。

なので沢木耕太郎の『深夜特急』のことは知っていても、とりたてて彼の著作を読もうとは思わなかった。しかしこの映画評はおもしろかった。評論というよりは、ストーリーを織り込みながらの感想文に近い。しかしその心の動きや、実際の映像の奥にある意味や深みを見事に文章化されており、さすがの一言につきる。うまい文章は、やはりすごい。

この本には魅力的な映画がたくさん紹介されている。見のがしていて、この沢木耕太郎の文章を読んで、見てみたくなった映画がたくさんあった。自分の見た映画もいくつか掲載されていたが、もうタイトルを見ただけで胸がつまるのは「恋恋風塵」である。


『広重さんが一番好きな映画はなんですか』と訊かれると、私は必ずウッディ・アレンの「スターダスト・メモリー」をあげることにしている。たいがいの人はこの映画を見ていないが、ウッディ・アレンの作品ときいただけで『あーあ』とわかったような顔をする。もう話はそこで終わるのが普通で、わかったふうな返事をした以上『それはどんな映画なんですか』とは訊いてこないし、私もどこがいいのかをその映画を見たことのない人に説明する苦労をしなくてすむからだ。

しかし本当は「一番好きな映画」はいくつもあって、ヴィム・ヴェンダースの「さすらい」や、ルチオ・フルチの「ビヨンド」、それに侯孝賢の「恋恋風塵」などは「スターダスト・メモリー」に匹敵するくらい好きな映画だ。しかしこのあたりの作品はウッディ・アレンの映画と違って『見たことありません、どんな作品ですか』と訊かれることが圧倒的に多く、これまた見たことのない人に説明する苦労は並大抵のものではないので、これらが好きだという話はめったにしない。

「恋恋風塵」はロードショーの時に映画館で見た。「冬冬の夏休み」という映画を偶然見た時に感動し、同じ監督の映画だと知って、映画館に足を運んだのである。
映画を見ていて、座っている椅子に沈みこみそうになるほど、胸が痛くなる映画だった。純愛を描いた映画ではあると思うが、単に純愛というよりは、もっともっと奥の深い、人間の愛の本質にせまった映画だった。そして、痛々しいほどに悲しく、そして懐かしい。
そう、台湾の映画なのに、自分の1970年代の青春を思い出すかのように、懐かしいのだ。

台湾の田舎、そこで育った若者とその恋人、男が先に台北、つまり都会に出てきて、少し遅れて女も台北に出てくる。そこで起きる平凡な人生と平凡な出来事を追った映画だが、結末があまりにも鮮烈に悲しいだけに、平凡な日常や生活がいかに重い意味をもつことかということを痛烈に感じされられる。

例えば、こんなエピソードが描かれる。
主人公の男は女と町に買い物に出かける。そこで出かけてくるのに使ったバイクを盗まれてしまうのだ。彼女のせいではないとわかっているのに、彼女につらくあたってしまう男。とまどう女。そしておろおろする彼女を見張りに立てて、他のバイクを盗もうとする男...。

二人はどちらも悪くない、なのにどちらもが嫌な気持ちになってしまう。物質的な貧しさと、心の貧しさと、だからこその純粋な気持ちと、相手を思う気持ち、そしてそのすれ違い。日本でもこういったシチュエーションは実生活でいくらでもあるにもかかわらず、日本の映画やテレビではこういったシーンは描かれず、台湾の映画にきちんと描かれていることは、やはり不思議だ。



私がCちゃんに貸してあげた本にも、「恋恋風塵」というタイトルのエピソードがありましたね。でもあれは映画のことではなかった。

『何が悪かったのではなく、何が良かったのかを考えながら、終わる関係というのもあるのだろう。』

そう、書かれていましたね。


今年、もう会えなくなった関係の女性に、この言葉を捧げます。



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