2009年11月25日

Fくんのこと

小学校の頃、一番仲が良かった友人はFくんだった。

Fくんとは6年間クラスが一緒だったように思っているが、実際はどうだったかもう記憶がさだかではない。しかしクラスがどうあれ、間違いなく一番の仲良しだったのはFくんだ。

Fくんはひょろっとしていて背が高く、かけっこが得意だった。足が速くて、私がどんなにがんばってもFくんにはかなわなかった。

Fくんとはたいがい趣味が一緒だった。お互いに切手を集めていたし、アマチュア無線の勉強を一緒にして試験を受けにいったりもした。マンガを読み、模型を作り、メンコやたこ揚げをしたり、鬼ごっこ、警察と泥棒、ひまな時はナゾナゾやにらめっこもした。

Fくんのお父さんは盲目で、あんま師だった。お母さんと3人暮らしで、小学校の6年間で数回引っ越しをしていたはずだ。理由はわからない。
わりと長く住んでいた、長屋のような家(おそらく借家だったのだろう)の押入にキノコが生えたといって、Fくんが喜んでいたのを覚えている。ちょうどマンガ「男おいどん」が流行していた時期で、『オレの家にサルマタケが生えた』とFくんがはしゃいでいた。『真っ白で気持ちわるかったぞ』という彼の言葉を聞いたものの、なんだかうらやましく思ったものだった。

小学校6年生の頃、切手を題材にしたミニコミをFくんがどこかから仕入れてきた。「渦潮」というそのミニコミのことは今でもよく覚えている。淡路島の大学生がガリ版印刷で作った小冊子で、なんだかとてもかっこよく思えたのだった。

当然Fくん、私、友人のKくんの3人で同じようなミニコミを作ろうとしたが、印刷する機械がない。コピー機などまだ存在しないし、青焼きコピーですら高額、そもそも学校の印刷物だって全部藁半紙にガリ版印刷だった時代である。小学6年生が3人集まったところで出てくる知恵は『全部手書きで作る』なんていうとんでもない発想くらいだった。(これは実際に取りかかったが、途中で挫折してしまった)

そんなある日、Fくんが私とKくんを呼び出した。
『あのな、昨日の夜お父さんが酔っぱらってててな、お小遣い1万円もらった!これでガリ版印刷機を買おう!』とFくんは言う。
ガリ版用紙、鉄筆、ローラー、インキ、編み目の印刷版などが揃い、Fくんのおかげでみごとガリ版印刷のミニコミは創刊できたのである。Fくんのお父さんはお小遣いをあげたことを忘れていて、金がない金がないと言っていたそうだが、もちろんFくんは知らんぷりだった。

小学校6年生の修学旅行は三重県の伊勢だった。伊勢神宮を参拝し、二見浦の近くの旅館に泊まる、一泊二日の旅行だった。
修学旅行から帰って、少したった頃、Fくんが我が家にやってきた。なにかモジモジしている。『これ、おみやげ!』と私に包みを差し出し、ピューっと帰っていった。
なんだ、おかしなヤツだなと思ってその包みを開けると、それは「友情」と書かれた小さな楯(たて)だった。

もう今は姿を消したが、昭和30-40年代は観光地に行くと必ず"楯"が販売されていた。その土地の名前、観光名所の名前、俳句や名言、そして「友情」「誠」「愛」などと文字が書かれたもの、などなど。
ペナントが一時期流行ったように、この楯も一時期の流行だったのだろう。友人の家に行くとひとつやふたつは必ずあったものだった。実は私も「愛」と書かれた楯が欲しかったが、なんせ小学生、「愛」なんて書かれた楯を買おうものなら『愛だって!いやらしい〜』などと間違いなくひやかされるに決まっている。だから結局は買わなかったのである。

Fくんは伊勢に修学旅行に行った時、この「友情」と書かれた楯を買ったのだろう。そしてそれを私に渡したかったのだ。まさに、友情のしるしに。

しかし照れながらくれたものだから、私も照れてしまった。部屋に飾ろうものなら母や姉から『それ誰からもらったの?Fくん?へー、いいじゃない〜』などと冷やかされるのはわかっていたので、なかなか部屋に飾れなかった。箱に入れたまま、時々出して見ていたのではなかったかな。

中学生になれば、友情なんて言葉はもっと照れくさい。もう箱から出されることはなく、どこかにしまわれ、そして紛失してしまった。

いや、実家に帰ればどこかにあるのかもしれない。
そんなものをくれたのは、後にも先にもFくんだけである。きっと大切にしてあるに決まっている。大阪万博のスタンプ帳、通信簿、二見浦の前で撮ったクラスメイトの写真などと一緒に、実家の二階の押入においてあればいいな。


2009年11月24日、休日だったので車で伊勢神宮と二見浦に行ってみた。
伊勢神宮・内宮の鳥居をくぐって少し行った先、御手洗場でもある五十鈴川に降りれる石畳を見た時、この場所にFくんと来たことを鮮明に思い出した。
それで今日、この「友情」の楯のことを思い出したのである。

二見浦のおみやげ屋にも寄ってみたが、もうペナントも楯も売っていなかった。
38年もたっているものね。

そうね。




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