2009年06月19日

乳房

『男なんてものは、土台そんなにりっぱなもんじゃないんだよ。あんたが考えるほどにはね。そしていまにわかるが・・・』

『女だって、そんなにりっぱなもんじゃないのさ』


(本所しぐれ町物語/藤沢周平・新潮文庫)


江戸時代、本所しぐれ町を舞台にした庶民人情もの・12話オムニバス。登場人物はひとつの話で主役だった人間が別の章では脇役で登場するなど、テンポよく、そしていくつかの話がつながっていく様が読んでいて心地よい。

冒頭のセリフは収録の『乳房』という話にでてくる。
夫の浮気現場に出くわして家を飛び出した嫁が怒り心頭、知り合いの居酒屋に身をよせ、夫が心から詫びても家に戻らない。その様子に業を煮やした居酒屋の女主人が主人公に語りかける言葉である。

人間のだめさ、だらしなさ、しかしそこに見る人間らしさと温かさ。

人間はそんなにりっぱなもんじゃない、という言葉には、諦観でもなく、内省でもなく、自己嫌悪でもなく、大きな意味での「許す」という気持ちが横たわっている。

さてこの嫁さんは、主人を許しただろうか?
気になる方はこちらをどうぞ。

本所しぐれ町物語 (新潮文庫)
著者:藤沢 周平
販売元:新潮社
発売日:1990-09
おすすめ度:4.5
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kishidashin01 at 09:30│clip!読書