2008年04月14日

努力の人

音楽誌「ミュージックマガジン」のインディーズ盤レビューは行川和彦氏で、もうずいぶん長くこのコーナーを担当している気がする。わずか2ページで、毎月もの凄い数のインディーズ盤からチョイスして記事を書くのはきっと骨の折れる仕事だと思う反面、ここに紹介されたからといってそのインディーズ盤が売れるかというとたいがいはそんなことはなく、演奏者が自分の出した盤が雑誌に掲載されたという自己満足以上のものがここにあるのかどうかは、正直わからない。

1980年代はこのコーナーは藤本和男氏が書いていた時期があったはずで、ほとんどのインディーズ盤を酷評していて、私は毎号そのページを立ち読みしながら笑っていた。
しかし真面目な読者も世の中にはいるわけで、藤本氏の原稿に対して『演奏者が一生懸命努力してつくったものをけなすのはけしからん』と編集部に手紙を書いた人がいるようだった。その投書が原因で藤本氏がこのコーナーをおろされたのかどうかは知らない。しかし藤本氏の原稿の最終回にはこの投稿への返答が書かれていた。いわく『そうは言うけれども、一生懸命努力していい音楽がつくれるならこんな楽なことはない』という内容の、およそ藤本氏らしい切り返し方でこのコラムを締めくくっていたのを覚えている。

最近はそうでもないが、以前はアルケミーにもよくデモテープが送られてきていた。たいがいはとるにたらない音楽で、アルケミーからリリースすることなどまずない音源がほとんどだったが、聞いた感想を求められるのがつらかった。
よかったですよ、などと言えば期待を持たせてしまうし、正直におもしろくなかったと言えばへこむか、逆に怒ってきたりする。なのでなるたけ無返答で、その返答がないあたりを察して欲しいと思うのだが、そういう気持ちをくめない人たちのほうが圧倒的に多く、多くは気に入ってもらえたのだとか思ったり、逆に私のことを責めたり怒ったり嫌いになった人たちが多かった気がする。そんな感じで、もうデモテープは受け付けていない、というスタンスを長くとっていたのだが、インディーズレーベルがそんな姿勢でどうする、だいたい新人発掘はデモテープも受け付けないでどうしているのだ、などと、これまたおせっかい&逆キレのような接し方をしてくる人もいて、けっこう困りました。

最近はそういうのもめったにないですけど。
きっとネットとかmixiとかで気軽に自分のバンドや音楽を宣伝できるようになって、それなりになっていると簡単に思えるからではないかなと思ってるのですが、どうなんですかね。

雑誌で酷評されることもなく、ネットで身内でほめあっていたら、もっといい音楽はでてこなくなる気がするなあ。
そしてネットのどこかでちょっとボロクソに言われたらめげてしまって、音楽を作ることも紹介することもやめてしまう、そんなひ弱なミュージシャンやライブの企画者やレーベル運営者があんがい多いのではないかと思ってしまう。

一生懸命努力していた音楽は、まだ藤本氏が原稿を書いていた時代(80年代)のほうが多かったのかもしれない。ああ、でもやっぱりおもしろいものではなかったかもしれませんね。(笑)

努力していいものができるなら、こんなに楽なことはない。
この言葉、教訓にさせてもらっています。
第五列の藤本さん!


あ、でも努力はしなくちゃいけないよ。
しかもハンパじゃない努力!普通の努力では、あかんようです。


kishidashin01 at 23:59│clip!音楽